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新宿二丁目で開催される日本最大の女性限定クラブイベントGOLD FINGERが「トランスジェンダーお断り」のポリシーを表明した(注1)。きっかけはアメリカ国籍のトランス女性が、友人のDJと共に4月のイベントに参加しようとしたところ見た目で入場を断られたことだ。入り口でIDを見せるよう言われた彼女は女性のIDを見せたが、出てきた主催者は「ここはトランスジェンダーの女性は入れないんだ」と言った。友人への差別に憤慨したDJは、その夜のプレイをボイコットし、仲通りで主催者と言い争いになった。
その後ポリシーを明確にすべきと求められた主催者は、とうとう自分たちのイベントは正式にシスジェンダー(トランスジェンダーではない人)限定なのだと広報に書くようになった。「トランスジェンダーを入れると、性暴力が防げないから」と匂わせて。そして火がついた。
GOLD FINGERは日本のクィアシーンとして良く知られ、ハリウッドからもセレブが遊びに来る有名な店である。主催者は東京レインボープライドパレードで先頭を歩いている「レズビアンコミュニティのレジェンド」だ。この件については、アクティビストの知り合いが多い私のまわりも騒がしくなり、店の関係者やLGBTコミュニティの目立つ者たちで、どたばたと話し合いになった。
よかったニュースは、店の関係者の中にもトランス排除を問題視し、トランス差別もセクハラもないクラブ運営に興味を持っている人がいることだ。クラブシーンはどこでもハラスメントの問題が起きやすい。海外ではクィア系のクラブを筆頭に、セクハラやレイシズム、トランスフォビア、体型による差別は、「ここではお断り」というステイトメントを作成し、店の中で掲示することが広まりつつあるという。日本でも昨今「クラブ内で痴漢を捕まえたがスタッフが何もしてくれなかった」などの被害が顕在化していて、大手の箱に対してこのようなハラスメント対策を求める動きが出てきている。
音楽に耳を傾け、自由に体を動かし、リラックスして過ごしたい時間に、ハラスメントはいらない。「GOLD FINGER」がきっと参考にしたいと思うような海外の素敵な女性のためのクラブで、トランス女性が一緒に楽しめるところはたくさんある。性暴力を憎みながらトランスジェンダーと連帯することは可能だ。GOLD FINGERは「シス男性お断り」と書き直して新しく出発すればいい。
残念だったのは「そうはいっても、コミュニティを引っ張ってきた人なんだよ」と主催者をかばう動きもあることだ。あるトランス男性には「正論はわかるけど、大きなイベントをするのがどれだけ大変だかわかるだろ」と諭された。それに対し、それでも差別はよくない、根本的なハラスメント対策が必要で、セクハラはいつでもどこでも誰の間にも起きうるものなのだ、と説くと、やはり同じ言葉が返される。そのループを3回か4回ぐらい繰り返していると、だんだん自分が「たけしのTVタックル」に出てくる田嶋陽子になったような気がした。あるいは、お父さんが稼いでいるんだから黙っていなさいと言われるDV家庭の子どもみたいな気持ちになった。私がお父さんの立場だったら、自分が変なことをしたらすぐにでも教えて欲しいけれど、そうは行かない大人の事情があり、大人の事情を読まない私は、正論をめそめそとこうやって連載に書いている。主流派のLGBTシーンがえこひいきをしている以上は、火消しのために看板の文字が書きかわることがあっても、これからも裏側でトランス女性の排除は起きるだろう。
この間、新宿二丁目のクラブで差別にあったと語るトランス女性の話がいくつも耳に入ってきた。「ま、あれぐらい整っているならいいんじゃない」と言われたトランス女性。「190センチの女はちょっと」と冷笑されたトランス女性。その背景には、単に「男が女装して入ってくる」という性暴力に対する不安だけではなく、女を愛する女が他の女を値踏みするという、女性蔑視に通じるものも感じられた。あくまで「いい女」が誰かを決めるのは自分で、値踏みするのも自分。「あいつは女じゃないよ」という冷笑は、クラスの女子に点数をつけるのと時々似ている。
私もトランス男性のひとりとして、新宿二丁目でハラスメントにあったことがある。加害者はいつもシスジェンダーだった。ひどいことを言われても、出会ったコミュニティの中で適応しなくてはいけないと思い、耐えている人は今でもきっといるのだろう。単に「レジェンド」率いるクラブだけの話ではない。私たちが「まあまぁそうは言っても、LGBT仲良くやりましょう」とか言っているときに、いつでもコミュニティには問題は起きている。プライドとはハッピーなものではなく、時には「もうたくさんだ」と言えることだ。
(注1)なおこの記事を書いた数日後にGOLD FINGER側はサイト上の表記を「当イベントの雰囲気にそぐわない方の御入場をお断りさせて頂く場合がございます。」に改めた。しかし、今後トランス排除が見直される方針はいまだ見えず、記事に書いた状況は変わっていないものと思われるので、そのまま掲載する。
東京都の話題
同じことでも言い方1つで変わるのが世の中なんだよなー。
いいか悪いかは別にして世の中って「パス度」で許容度が変わるのだよ。
そんなものなのだ。寛容のパラドックスにならないように、
このあたりはかなり慎重に考えないといかん。
寛容の裏側では新しい不寛容が生まれているのだ。