トランスジェンダー女性の死が招いた売春「非犯罪化」議論
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現地時間7日、27歳のトランスジェンダーの女性レイリーン・ポランコさんが、米ニューヨーク市ライカーズ刑務所内の監房で身動きしていないのが発見された。蘇生措置を試みたものの、午後3時45分に死亡が宣告された。
彼女は売春の微罪と軽度の薬物所持違反で逮捕された。逮捕の結果、ポランコさんは刑期を務める代わりに、マンハッタンの人身売買調停裁判所(HTIC)に出廷し、カウンセリングを受けることが義務付けられた。売春容疑の逮捕者に対してしばしば科される措置だ。彼女は去る4月にもタクシーの運転手を噛んで再逮捕された。この件だけならライカーズ刑務所行きを免れただろうが、裁判所命令による更生プログラムを受けず、500ドルの保釈金も払わなかったために収監されたようだ。
ポランコさんは癲癇を伴う持病を抱えていたという。
ポランコさんが微罪に対する保釈金の未払いで収監され、しかも監視棟の中で死亡したという事実に、ソーシャルメディア上ではあちこちで怒りの声があがった。アレクサンドリア・オカシイオ・コルテス下院議員をはじめ著名な政治家も彼女の死に怒りを表明した。今週議会に提出されたニューヨーク州全域の売春非犯罪化法案を推進していた団体DecrimNYも、ただちにポランコさんの死に関して声明を発表した。「我々は、今すぐ売春の非犯罪化を実現するべきです――拡大した司法の網で人々をがんじがらめにするような法改正ではなく、非犯罪化です――生活の糧を売春に頼っている有色人種のTGNC(トランスジェンダーおよび性同一性障害者)コミュニティを守るために」と言うのは、DecrimNY運営委員会のメンバー、ジェシカ・ペニャランダ氏。非営利団体Urban Justice Centerのセックスワーカー部で啓蒙促進を担当している。「次の犠牲者を出すわけにはいきません。もうこれ以上」
ポランコさんの死に憤りを感じているLGBTQコミュニティのセックスワーカーたちは、そもそも彼女がライカーズ行きとなった警察からの不当な扱いに加え、刑務所での過酷な環境は、有色人種のトランスジェンダーのセックスワーカーには日常茶飯事だという。警官から差別や嫌がらせの標的にされることもしょっちゅうで、刑務所でも驚くような仕打ちを受けているという。
ジェンティーリ氏のような活動家の多くは、売春の犯罪化がとりわけ有色人種のトランスジェンダーの女性を標的とし、彼女たちを社会から追放していると考えている。アメリカ国内の黒人のトランスジェンダーで、売春したことがあると回答した人は21%近くだったのに対し、トランスジェンダー全体では12%だった。その理由のひとつは、ポランコさんのような有色人種のトランスジェンダーの女性はまず雇用差別をはるかに受けやすい立場だからだ。先の調査でも、黒人のトランスジェンダーで現在無職だと回答した人の割合は、全トランスジェンダーの場合よりも2倍、アメリカ国民全体と比べると4倍も多かった。
ジェンティーリ氏が言うには、多くの有色人種のトランスジェンダーにとって、売春は自分たちに残された数少ない収入源の一つ。生きるために、いわゆるサバイバル売春と呼ばれるものに手を染めるのだ。「トランスジェンダーにとって、勉強を続けるとか、就職活動をするというのはものすごく大変なんです」と本人。「私たちにとっては、売春で稼ぐことを選ぶのが楽な場合もあるんです。心底嫌っている人もいれば、張り切っている人もいますけどね」。売春の裏に隠された複雑な動機、身の安全と生計を確保することの難しさ、さらに売春が犯罪であると言う事実が相まって、有色人種のトランスジェンダーの女性はとくに警察から差別と嫌がらせの対象にされやすい。
売春経験のあるトランスジェンダーの16%が警察から暴力を受けたと回答している。ラテン系のトランスジェンダーとなるとこの数は増え(34%)、黒人の場合はさらに増える(53%)。人身売買の被害者で、現在はMake the Road New Yorkという団体を主宰する元セックスワーカーのビアニー・ガルシア氏は、彼女が暮らすクイーンズのジャクソンハイツでは、警察によるトランスジェンダーの嫌がらせの話題を耳にしない日はないと言う。警察は彼女たちが夜中に独りで外を出歩いているというだけで、セックスワーカーだと決めてかかるそうだ。
「集会で何度か、夜中にクラブや薬局に行くのが怖い、トランスとして歩いているだけで逮捕されるかもしれないから、と言う人がいました」と彼女は言う。「一度など、結婚証明書を持ち歩いていると言う人もいました。自分の隣にいるのはパートナーですよと(警察に)証明するためにね……それもこれも、警察や職権乱用のせいです」
刑事司法制度で有色人種のトランスジェンダーの女性たちが直面するあまたの障壁に加え、裁判所命令によるカウンセリングも――ぱっと見はセックスワーカーが刑務所に行かずにすむよう救いの手を差し伸べているようにみえるが――百害あって一利なしだと、活動家は指摘する。
「5回のカウンセリングを受けたとして、それでもホームレスのままなら、何の役にも立ちません」とジェンティーリ氏。「5回のカウンセリングを受けても無職のままで、仕事が見つかる当てもないなら――トランスジェンダーだというだけで差別されるんですから――そんなの無駄です」
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世の中ってマジで絶妙なバランスで成り立ってるので、ある必要悪をつぶすと、
いろんなところにひずみが生じるというのはよくあること。
売春なんかも「悪い」という刷り込みにとらわれずゼロベースで議論してみるのも面白いかもね!