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男性から女性へ。変化するボディライン、“しっくり”と一致する心と体。【実録 トランス ...

男性から女性へ。変化するボディライン、“しっくり”と一致する心と体。【実録 トランス ...

牛歩ではあるが少しずつLGBTQ+への理解が広まり、ファッションやビューティー、また生き方も含めジェンダーの垣根が消えつつある。その流れも手伝って、男性から女性、女性から男性になったトランスジェンダーが表舞台に立つことも多くなった。でも、当事者のリアルな声を聞くことはまだ少ない。そこで今回『VOGUE JAPAN』は、都内に住む26歳のNさん(会社員)にインタビューを試みた(このシリーズは、十人十色の生き方がある中の、ある1人の女性にフォーカスしたルポになり、トランスジェンダーを一括りにするものではない)。
男性的な体の変化に嫌悪感。内なる女性性を確信する。

シャネルのビューティー・ラインのキャンペーンに起用されたテディ・クインリヴァン(左)や大ヒットドラマ『ユーフォリア』に出演し数々のランウェイに登場するハンター・シェーファー(右)は元男性のトランスジェンダー女性。Nさんはテディのような面長さと、ハンターのような透き通った肌の持ち主だ。Photos: David Crotty/Patrick McMullan via Getty Images, Rosdiana Ciaravolo/Getty Images

──自分の中の女性的な感覚に気づいたのはいつ頃ですか。
「幼稚園の時から車や戦隊モノのテレビ番組には興味がなく、セーラームーンやおジャ魔女どれみが好きで、祖父母にせがんでドレスを買ってもらったり。第二次性徴が始まる小学校5、6年の初恋の相手も男の子。ただ、当時の見た目は普通の少年でランドセルも黒でした。だから最初は、自分はゲイなのかな、と……。でも高校に入った頃に、はるな愛さんや佐藤かよさんをテレビで見て、『こういうことなのかも』と思い、髪を伸ばし、中性的なファッションにシフトしました」

──まわりの反応はどうだったのでしょうか。
「両親は困惑していたと思います。一時的な趣味、いつかは治る……と信じたかったのかもしれません。通っていた学校は中高一貫の男子校だったので、友達は変わったやつだと思いながらも自然に受け入れてくれ、いじめに悩むこともなく、恋愛も経験しました」

──恵まれた環境ですね。性別に違和感を覚えた決定的なきっかけは?
「体毛が濃くなったり、少しずつですが骨格ががっしりしてきて、その変化に違和感を覚え、とても嫌でした。そのとき、自分にある女性性をはっきりと自覚したんです。一刻も早く女性に近づく治療を始めたかったのですが、家族にも相談できなかったので、高校を出たら実家を出て一人暮らしをしようと決意しました」

──いつからどんな治療を?
「大学1年の19歳から性ホルモン療法を。簡単に説明すると、トランスジェンダーのホルモン療法のルートには2種類あります。1つは、日本精神神経学会のガイドラインに沿い、数カ月に渡る精神科への通院の後に、性同一性障害であると診断され、医療機関でホルモン療法を開始という方法。もうひとつは、海外からホルモン薬を購入する方法(注1)。これはもちろん自己責任です。個人輸入には不安もありましたが、男性ホルモンの分泌が活発な若い頃の数カ月というのは、あまりにも長すぎる。一刻も早く体の変化を止めたい私は迷わず後者を選びました」

※注1:薬の個人購入は安全性の保証がなく、すべて自己責任となります。また、医薬品の個人輸入には厚生省からの注意喚起が出ています。Nさんは18歳以上だった点と個人的な知識の蓄えの上で当時海外から性ホルモン錠剤を購入していました。
性ホルモン療法で、胸が膨らみ、髪も豊かに。

Nさんの服用する女性ホルモン錠剤、プレマリン。Photo: Shisuke Kojima

──ホルモン剤には種類があるのでしょうか。
「女性ホルモンはエストロゲンとプロゲステロンに分かれ、主にホルモン療法に使われるのは、エストロゲン製剤。そしてエストロゲンにはE1、E2、E3の3種があり、主にE1を含む錠剤のプレマリンもしくは、E2単体の注射やパッチ、塗り薬による療法があります。ただ内服は注射より肝臓に負担が大きく血栓ができやすいというリスクもあり、迷いましたが、初めはスピーディに服用を開始できるプレマリンを内服することに。ちなみに、性同一性障害のホルモン療法に用いるプレマリンの服用量は更年期治療の約3倍と聞きます」

──プレマリンの内服療法でどんな変化が?
「服用初期には、一時的に男性ホルモンが増加することもあるみたいです。外面に変化が出始めるのは服用を開始して数ヶ月が経ってから。まずは乳腺が発達して、カップはA+くらいまで膨らみました。肌は2年くらいかけてキメ細かくなり、明らかに透明感もアップ。体毛はやや細くなり伸びが遅くなりましたが、逆に髪の量は豊かに。特に生え際の髪が増え、四角かった額が丸くなり、女性らしくなりました」

──柔らかな声ですが、それもホルモン療法の作用ですか?
「声は声帯の手術をしないと変わらないので、発声方法を工夫しています。裏声ではなく、喉を開放しないで舌のあたりだけで声をだす、というテクニックですが、説明が難しい……」

──ずっと同じホルモン療法を?
「個人輸入のプレマリンを5年くらい。20歳のときに都内のクリニックで処方もしてもらいましたが血液検査が高くて続けられず。ただプレマリンによる変化にも限界があるし、副作用への不安もあったので大学卒業と同時に注射による治療に移行しました」
性別適合手術で、心と体が一致する第二の人生を。

実際のトランスジェンダーがトランスジェンダー役を演じた、映画『ナチュラル・ウーマン』(2017)。偏見や差別を乗り越え、力強く生きる姿があまりにも美しい。Photo: © Sony Pictures Classics /courtesy Everett Collection

──ホルモン療法の次のステップは?
「大学を卒業したら手術を受けようと。国内で手術を受けるためには診断書が必要なので、あるクリニックで受診したところ、少ない受診回数で診断書を出してもらうことができました。これには個人差があります」

──そして、いよいよ本丸の性別適合手術。
「女性器を作る大掛かりな手術なので、2週間の入院。大変なのは術後で、作った膣を体が傷だと認識して修復し穴を塞いでしまうので、それを防ぐために棒のようなもので穴を固定するダイレーションというセルフケアを1年以上続けなければなりません。はじめは歩くことも困難で、行動範囲も狭くなります。私の場合は比較的早く痛みが軽減され、ラッキーでした」

──手術の後に戸籍も変えたのでしょうか。
「はい。性別適合手術をした診断書のほかに、子供がいないこと、婚姻関係がないことなど、いろいろな条件があるのですが、家庭裁判所に戸籍変更の申立てを行い、戸籍上も女性になれました。今の私は“子宮がない女性”なので、ホルモン治療が保険適用になったことが嬉しい。それまでずっと自己負担で経済的にも厳しかったから」

──今も治療は続けているのですか?
「エストロゲン注射と、体に丸みを作るためのプロゲステロンの内服を。体重も3キロ増え、ヒップにも脂肪がついて少しボリュームが出ました。また、使用するホルモン剤の量が手術前に比べ大幅に減り、身体への負担も少なくなるという安心感もあります」

──体も戸籍上も女性になった気分は?
「やっと“しっくり”きた、という感じです。一番変わったのは、体より心でしょうか。自分の中の男と対峙する恐怖心や違和感が消えて、頑張って女にならなくちゃという焦りもない。心と体が一致したことで精神状態も穏やかになり、楽になりました。でも女になったら社会から軽視されていることも感じて、むしろ男らしく振る舞ってしまうくらいです。女性になり、初めて目に見えない男尊女卑の“何か”を感じています」

ファンデーションを省いた透けるようなすっぴんに、しなやかなロングヘア。ゆるっとしたスウェットとデニムというファッションのNさんは、ステレオタイプの過剰な女らしさとは無縁の自然体。その印象は、リラックスした中に芯の強さを感じさせるかっこいい女性像だ。「心と体が一致したことで、ようやく焦りが無くなった」と語るNさん。精神的な充実こそが美しさを創る。それを実証するインタビューとなった。

続く第二弾では、オタクレベルに突き詰めた“トランスジェンダー美容法”を紹介する(2020年11月中公開)。

クリハラチアキ
早期治療以外に道はない。。。



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