「ありのまま」臨んだ面接通らず 性的少数者 就活の壁
売り手市場でも…遠のく夢
学生の売り手市場とされる就職活動。富山大理学部四年の男性(22)は今春、自身のセクシュアリティを打ち明けて臨んだ。男性の体で生まれたが、自認する性は男女の区別がつかず、心と体の性が完全に一致しないトランスジェンダー。面接では説明を尽くしたつもりが、内定は得られなかった。「なぜ駄目だったのか知りたいけれど…」。心は晴れないままだ。(向川原悠吾)
この男性は「きれいになりたい」と普段から化粧をしてよく女性に見られ、好きになるのは男性だ。今春、受けたのは東京の人材紹介系の企業十五社ほど。高齢化が加速する中「定年しても働きたい人がまた仕事をできるようになってほしい」と営業職で応募した。「人と話すことが好き」という性格も職種に合致。大学のゼミの准教授も「物腰が柔らかくて彼がいるだけで場が明るくなる。いいコミュニケーションで学生をうまくつないでくれるので、人を結び付ける仕事をしてくれれば」と願っていた。
面接は私服で受けられる企業を主に選び「自分を隠してまで入りたくない。ありのままを知ってほしい」と普段通りの髪形や化粧で臨んだ。ただ、いずれも内定の通知はなかった。セクシュアリティについても聞かれなかった。
地元の愛知県犬山市で中学生の時に同性に恋をして以降、「きれいな物が好きで自分もそうなりたかった」という男性。振り向いてもらおうとヒールを履くようになり、そうした経緯が現在につながっているという。面接に受かっていれば「東京でおしゃれなランチを食べた後にキャリアウーマンみたいにたくさん働けたかな」と冗談交じりに振り返るが、切なさもにじむ。
今はもう、卒業後に思い描いていた姿からは遠ざかっている。「自分を受け入れてくれるところはあまりない」と就活への意欲は下がり、来年度は富山市内の性的少数者が集うバーで働くことを決めた。状況を見かねた知り合いの店主が雇ってくれた。
「自分を助けてもらったことは本当にありがたい」。感謝の気持ちにうそはないが「親に大学まで行かせてもらったのに、うまくいかなくて申し訳なくて…」と複雑な思いでいる。
採用側不理解で門戸狭まる恐れ金沢大・岩本准教授
LGBTなど性的少数者の人権に詳しい金沢大人文学類の岩本健良准教授(社会学)は就活にセクシュアリティが影響したかは分からないとする一方、心と体の性が一致しないトランスジェンダーにとって採用側の不理解などから就職の選択肢が狭まる可能性は高いという。
岩本准教授が参与を務めるLGBT法連合会には、「オカマに営業はさせない」といった、当事者が顧客や会社側から受けた理不尽な差別などのほか、トランスジェンダーを理由に解雇されたといった相談が報告されている。
岩本准教授は「行政や企業は当事者の困難を把握して早急に対策するべきだ」と訴える。当事者には「マイナスとされやすい点をプラスととらえて、企業などにどう説明できるかが重要」と呼び掛けている。
とにかく「勝つまで負けない」のだ。がんばってほしい。