【金沢】駅前シネマ、3月末で閉館へ
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映画隆盛期の昭和30年代から石川県内で唯一、営業を続けた「駅前シネマ」(金沢市笠市町)が今月末にも閉館する。映画館がシネコン(複合型)中心となる中、単館のピンク映画館として根強い人気を得たが、フィルムでの上映継続が難しくなったことなどを理由に、藤岡紫浪(しろう)館長(72)が62年の歴史に幕を下ろすことを決めた。裏路地のピンクネオンが静かに消えようとしている。
藤岡さんの祖父が駅前シネマを開業した1958(昭和33)年、金沢市内には映画館が20以上あり、同館は封切りから半年ほどたった娯楽作品3本立てを最低料金55円で上映して人気を博した。しかし、家庭にテレビが普及すると娯楽映画は下火に。閉館を考えた祖父を、藤岡さんは「一生の仕事にするから」と説得し、金大を卒業した70年に経営を引き継いだ。
日活がロマンポルノの製作を始めると駅前シネマもピンク映画に活路を見いだし、人目を忍ぶ裏通りの立地を生かして多くのファンを獲得した。そんな成人映画館もビデオやDVDの普及で廃業が続き、藤岡さんによると、フィルム上映を続けるのは駅前シネマを含め全国で4館のみ。北陸では唯一となった。
フィルムでの上映にこだわってきたが、それも難しくなった。成人映画もデジタル化が進み、数年前からフィルムの新作は作られなくなった。貸し出しをやめる配給会社もあり、DVDへの切り替えを勧められたが、藤岡さんは、受け入れられなかった。
土日は70~100人、平日でも40~50人ほどの客がいたが、新型コロナの感染拡大のあおりを受けて客足は3~4割落ちた。それでなくても成人映画を見る若者は減り、客層は高齢化。先が見通せない状態でもあったという。
祖父から経営を引き継いで半世紀。365日、ほぼ休みなく働き、深夜営業の日は睡眠時間が2~3時間しか取れないことも。藤岡さんは「体力も限界にきた。そろそろ引き際やなと。任侠(にんきょう)映画でも老親分は殺される役目。そんな年になったんやね」と好きな映画になぞらえて語る。
昭和の残像が色濃い館には、色気たっぷりのペンキ画やポスターが並ぶ。「駅前シネマのような、妖しげな存在も必要なんや」との気骨で映画館の灯をともし続けてきた藤岡さん。土地、建物は売却する方針で「この年まで全うできたのはファンがいたから。感謝やね」。慣れた手つきで映写機を操作すると、フィルムがカタカタと音を立て始めた。
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