「診療を拒否された」「フルネームを呼ばれた」 約半数のトランスジェンダーが受診で不快に
「本名をフルネームで呼ばれる」「興味本位の扱いを受ける」などが多かったが、中には、医師から「うちでは診ることができない」と診療を拒否される例もあった。受診をためらった理由で多いのは、名前や性別欄と見た目のギャップの問題だ。
自由回答の中では、保険証の性別欄や本名と、見た目とのギャップについて説明をするわずらわしさや、受付や診察室への呼び出しの際に本名で呼ばれるのが不快だという声が多かった。
医師に身体を診せることが苦痛だったり、FtM/トランス男性だと胸の膨らみを押さえつける「ナベシャツ」を着ていることが聴診器を当てる時にバレることを恐れたりする人もいた。
浅沼さんは、こうした診療上の不快さは、医療者の適切な対応で和らげることができると言う。
「流れ作業で指示するのではなく、『あなたの症状を診るためにはこういう検査をすることが必要なので、肺の音を聴かせて下さい』と一つ一つ丁寧に説明をすれば、患者は不安が軽減した状態で身体をみせられる可能性があります。トランスジェンダーに限りませんが、患者の不安に配慮した声かけが必要です」
自由回答の中には「GID(性同一性障害)であることで『うちでは診られない』とたらい回しにされた経験がある」ことや、「以前、カミングアウトしても理解されるどころか、頭ごなしに批判された」という経験から、受診をためらう気持ちになったと書いてくる人もいた。
「私の友人でも『早く元の体に戻しなさい』と医療者に説教された人がいます。そういう不快な経験がトラウマになって、次も同じことが起きるかもしれないと受診をためらってしまい、体調を悪化させてしまう人もいます」
受診の際に嫌な体験をしたことがあるのは全体で45%、FtM/トランス男性では56%も嫌な体験をしていた。「保険証の氏名や性別と見た目が違っているため、違う人ではないかと疑われる」「名前を呼ばれた時の周りの視線」など、保険証に書かれた名前や性別で本人確認する際に、不快な思いをする人は多い。
「取り違えなどを防ぐためにも本人確認が重要なのはわかるのですが、受付で説明した後にも、呼び出しや診察室でもなんども本人確認されることが多いのですね。医療者が内部で情報を共有してフルネームで呼ばないようにするなどの配慮を求めたいところです」と浅沼さんは言う。
「精神科の受診先を探している時に、性同一性障害の診断がついていることを伝えると初診も断られた」「医師に『特別な治療をしている人だから他で診てもらってください』と言われた」と受診拒否にあった経験を書く人もいた。
受診の時に当事者を悩ませるオープンな場で見た目と違う「本名」を呼ばれる問題。では、なぜ名前を変更していないのだろう。MtF/トランス女性では名前を変更したいができていない人が多く、FtM/トランス男性ではすでに変更した人が多い。性別適合手術は2018年4月から公的医療保険がきくようになったが、性同一性障害と診断を受け、ホルモン治療を受けていないことが要件となる。
保険のきかないホルモン治療を受けていれば、性別適合手術も自由診療となり、依然として経済的負担は大きい。さらに、MtF/トランス女性では脱毛する人が多く、治療費はかさむ。
「ホルモン治療を継続して行うだけでも経済的な負担が大きく、1回約1000円~5000円かかります。2週間~1か月に1回投与することが多く、平日に有休を取って受診する人や、ホルモン療法をしてくれるクリニックや病院がないため遠方まで通院しなければいけない人もいます。長く付き合っていかなければいけないことなので早くホルモン療法が保険適用になることを願います」
逆にトランスジェンダーが受診・入院した時に嬉しかった経験はあるのだろうか? 通称名を使え、呼び出しの時に苗字だけで呼ぶなどの配慮をしてくれたことだ。この結果を受けて、浅沼さんたちは新たな研究調査と医療従事者向けの啓発イベントを企画中だ。
「様々な事情で、治療したくてもできない人がいるし、戸籍変更をしたくてもできない人もいます。トランスジェンダーの人々が不安や嫌悪感なく必要な時に医療機関を受診できるよう体制を整えてもらうことや各医療機関で適切な知識を得る為の研修をしてもらいたい」
「トランスジェンダーが直面する問題は、時として命や身体に深刻な影響を及ぼすことにもなるので早急に取り組んでほしいのです」
必要のない治療では配慮があってもいいよね!もうこんな時代なんだから。
男女2分ジェンダー解放、常識崩壊時代。