インドネシアは、世界第4位の人口(約2億6000万人)の88%がイスラム教徒という世界最大のイスラム教人口を擁する国である。国是は「多様性の中の統一」であり、「寛容」こそがそのキーワード、と言われている。
しかし、実際のところ最近のインドネシアを覆っている空気は、圧倒的多数のイスラム教徒による「暗黙のイスラム優先の押し付けと他宗教による忖度」で、性的少数者のみならず民族的少数者、宗教的少数者など「少数者」への偏見と差別、人権侵害が堂々とまかり通る深刻な状況に陥っているのが現状なのだ。昨年11月、インドネシアの首都ジャカルタ郊外で行われた反LGBTデモ(2018年11月9日撮影)。(c)Sandika Fadilah Rusdani / AFP 〔AFPBB News〕
デポック市ではすでに2012年に市条例16号で「公の場所での不道徳な行為」を禁じている。しかし「具体的にLGBTの人々の行為を禁じているわけではない。例えばカフェに同性の者同士が繰り出し、公衆の面前で抱き合う様子などは見たくない。デポックは住民にとって気持ちよく、そして宗教的に暮らしやすいところなのだから」と説明している。
条例案では「LGBTによる公の場での同性愛を思わせる、キスや抱擁などの行為の規制や住民による監視、通報」などが盛り込まれているという。
そこにはLGBTなど社会的少数者への配慮も人権感覚も感じられないものの、「市民の声」「多数を占めるイスラムによる宗教上の規範問題」という“錦の御旗”に誰もが正面切って反対しづらい状況が醸成されている。問われているのはインドネシアの寛容
イスラム教では同性愛行為や男性の女装、女性の男装などを「イスラム教の教えに反する」として反対の姿勢を示している。反対を唱えるだけならまだしも、女装した男性を地域で吊るし上げる、集団で暴力を振るう、長髪を公衆の面前で刈り上げる、消防車のホースで水を浴びせて女装を脱がせる、男性らしい大きな声での発声訓練を強要する、などというリンチ(私刑)も横行するなど人権侵害事案が各地で相次いでいることも事実。
同性愛者がよく集まるというカフェやマッサージパーラー、バーへの集団襲撃や警察による手入れもよく行われている。
インドネシア第2の都市スラバヤで、ホテルで行われていた同性愛者のパーティーで拘束された参加者たち。違法でないのに当局によるこうした人権侵害は後を絶たない(2017年4月30日撮影)。(c)AFP/JUNI KRISWANTO〔AFPBB News〕
こうした風潮の中、首都ジャカルタに近く、最高学府のインドネシア大学デポックキャンパスも近いデポック市というジャカルタのベッドタウンでの反LGBT条例の行方が大きな注目を集めているのだ。
ジャカルタの東に隣接する西ジャワ州ブカシ県スカタン郡では2019年5月に地元に暮らすヒンズー教徒の人々がヒンズー教寺院を建設しようとしたところ、イスラム教徒の集団が押しかけて「イスラムの土地を汚すな」「建設を強行すれば聖戦(ジハード)で抵抗する」などと反対する騒ぎも起きている。
国を二分した大統領選が5月に決着し、再選続投を決めたジョコ・ウィドド大統領と、対立候補として惜敗したプラボウォ・スビアント氏とによる直接会談によって、選挙戦のわだかまりを解消する「和解」が7月13日に実現したインドネシアだが、国民の寛容に基づく「多様性の受容」がいま改めて問われていると言える。
性のフラット化は自然の流れだから。
そんなもので止められるものではないぞ。