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トランスジェンダーが受診しやすい婦人科とは、どういうものか

トランスジェンダーが受診しやすい婦人科とは、どういうものか

大半のイベントがオンラインに移行した2020年、もっとも反響の大きかったトランスジェンダー向けのイベントのひとつは「婦人科医をゲストに招いたセミナー」だった。

9月下旬に、出生時にあてがわれた性別が女性であるトランスジェンダーを主な対象に「婦人科医に聞ける!トランスジェンダーと治療、からだの健康」というZOOMのイベントを企画したところ、なんと全国から90人を超える申し込みがあったのだ。好きな場所から、顔を出さずに、無料で参加して気になることを質問できる。女性自認ではない人が婦人科を受診することにはとてつもないハードルが多い。申し込みをした人の数が多かっただけでなく、大半の人が質問を添えてくれたのも印象的だった。

ホルモン療法をしたら短命になるのか、ホルモン療法をして性別適合手術を受けないでいるのは身体に悪いのか、子宮卵巣を摘出したあとの更年期障害めいた症状にはどうしたらいいのか、郵便受けに入っていた子宮頸がん検診のクーポンが不気味でずっと放置してあるが受診したほうがいいのか、ホルモン療法をしていれば妊娠しないのか、ホルモン療法をしている場合には健康診断の結果はどちらの性別で見れば良いのか、などなど。

トランスジェンダーにとって長らく婦人科は「鬼門」であり続けている。

2014年に聖路加国際大学看護学科の山下奈緒子氏が行ったウェブアンケート調査によれば、FTM(トランス男性)自認の103名のうち、婦人科への行きづらさを感じている回答者は99%で、症状があっても受診するつもりがないと答えた人が半数以上だった。

 受診の困難さだけでなく、性の健康について知識があまりない当事者も多いように感じる。私自身をふりかえっても学校で安心して学べる環境はなかった。女子だけ放課後に集まるよういわれた小学校高学年の授業は無視して帰ったし(同級生も、おまえは帰っていいんじゃないかと背中を押してくれた。ある意味では正しかったし、ある意味では間違っていた)、中学・高校の性教育の時間は不快感との戦いで知識の吸収どころでなかった。中学2年生のとき、先生が自身の出産のときの話をしてくれたときがあった。先生が破水して車いすに乗せられた話をしたところで、私は保健室に行こうとして席をたち、廊下で倒れた。

そんな自分が性教育にポジティブなイメージを持つようになったのは大学時代、性別を固定しない語り方でHIVや性感染症の啓発を行っていた東京都エイズ啓発拠点”ふぉー・てぃー”のスタッフと出会い、働き始めてからのことだ。そこでは男の子や女の子という言い方はせずに、膣や肛門、ペニスをつかった性行為という説明をしていたし、トランスジェンダーがいることはどこの場面でも想定されていた。いつも笑いが絶えず楽しいやりとりが多かった。性の健康に関する知識は、単に情報を得るというよりは、だれに学んだかが重要であるように思う。トランスジェンダーを尊重してくれる人に教えてもらえれば、生きた知識として身につく。コミュニケーションをどう取るかの部分が大きい。

”ふぉー・てぃー”という性教育を行う側のスタッフになっても、相変わらず私は自宅に届く子宮頸がん検診のクーポンを捨て、婦人科に行けといわれるぐらいなら真冬に滝で修行するよう命じられたほうがマシだと考えていた。意見が変わったのは、トランス男性の友人がノリノリで婦人科受診を勧めてきたからだ。

彼は健康マニアで、「待合室で誰にも合わなくて済む工夫があって最高で、しかも先生はサバサバしていて中島みゆきに似ているんだ」と言い、その中島みゆきこと吉野一枝先生と今度ぜひ一緒にイベントを企画しないかと声をかけてくれたのだ(病院での工夫はこちらのインタビューにも詳しい)。イベントではじめて先生のやっている診療所を訪れた。そうして後日はじめて受診する機会を得た。今回行ったオンラインイベントに協力してくれたのも吉野先生だが、このような先生が各地域にひとりでもいれば、いざというときそこに行けば済む。世の中の9割の婦人科があいかわらず受診しにくかったとしても、まずは各都道府県に一箇所でも、トランス・フレンドリーな婦人科医がいてくれれば状況は変わるのではないかと思う。

トランスジェンダーについての知識を有し一人ひとりにあった医療を提供できること。窓口での呼び出し方や待合室でのプライバシー確保(吉野先生の診療所ではひとりで待機できる部屋がある)、アイデンティティを尊重した話し方、女性らしさを押し付けた全面ピンクの内装でないことなど、受診しやすい環境づくりのために工夫できることはいろいろとある。でも、やはりそれだけでは足りなくて、トランスジェンダーのいるところに出かけて行ったり、一緒に啓発活動などをしてようやくなんとか受診できるのがトランスジェンダー にとっての婦人科なのではないだろうか、とも思う。類似のイベントを、他の婦人科医ともやれたらよいし、東京以外の場所でも企画してくれる人が増えたら良いなと願っている。

(オンラインイベントの様子は、後日主催団体である「カラフル@はーと」のHP上でも一部公開予定なので、よければご覧ください)

クリハラチアキ
中高年の医者にはなかなか理解してない人も多いので、
世代交代が進めば勝手にダイバーシティって広がる気がする



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