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乳房を切除する手術を受けたら停学処分に… あるトランスジェンダー男性のケース

乳房を切除する手術を受けたら停学処分に… あるトランスジェンダー男性のケース
米テネシー州のトランスジェンダー男性が、乳房切除手術を受けた直後、トランスジェンダーであることを理由に、通っていたキリスト教系大学から停学処分を受けた。
男性は21歳のヤナ・オートリー(通称に使っている男性名もあるが、この記事では本人の希望により出生名で表記する)。両親が宣教師をつとめる福音バプテスト教会に育った。
大学を選ぶ際、選択肢は事実上決まっていた。テネシー州ナッシュビルの北東にあるウェルチ・カレッジだ。福音バプテスト教会が運営する、小規模な私立大学である。
「他の選択肢はありませんでした。非キリスト教系の別の大学はどうかと話題にすると、両親は必ず否定的な反応をしました」。オートリーはBuzzFeed Newsにそう語る。両親は現在、長期の宣教活動のためブルガリアに滞在している。

大学へ進んだオートリーには一つ秘密があった。思春期以降、生まれ持った性別に違和感を抱えていて、15歳のときに「トランス」という言葉があるのを知った。トランスジェンダーであると打ち明けたのはごく限られた人だけだ。両親にも話したが、性を変えて生きる選択には否定的だという。
今年に入り、ホルモン補充療法を始めることができた。さらに、必要なサポートがほとんどない中で、8月2日に乳房切除手術を受ける準備も整えた。

術後は同伴者が必要なため、両親の知人夫妻を頼ることにした。当日、詳細にはふれずに、手術を受けてくるとメモを残した。
「周りの人には一切言わずに、全部自分ひとりでやりました」
手術の日は大きな安堵を覚えた。
「手術室から出てまだ麻酔でぼんやりしたまま、看護師さんに無事終わったのか聞きました。そのあと盛大に泣き出して、涙が止まりませんでした」
だが、オートリーが手術室にいる間に事態は暗転していた。その日に滞在させてもらうつもりだった知人夫妻が事情を知り、両親と大学に連絡していたのだ。
まだ術後の回復途中だった数時間後、大学の学生部長ジョン・フォーリンズからメールが届き、大学へ戻ることは許可できないと告げられた。
BuzzFeed Newsが確認した当該メールには、「今回あなたが取った選択を理由に、本学では今後あなたを寮に迎えることはできかねる旨を留意してください」と記されている。

大学側は、当面の滞在先として近隣ホテルの部屋と食費を提供すると伝えてきた。また、寮の自室にある私物を取りに来るときは事前に許可を得るようにとの指示もあった。
メールは「この先あなたが必要な際にはキリストの愛が応えてくれますようお祈りしています」と結ばれている。
オートリーは突如、住む場所を失った。術後の身体ではホテルに一人で滞在するわけにはいかない。幸い、地域の支援グループにいる知り合いが数日間受け入れてくれることになった。
オートリーは一連のできごとをソーシャルメディアに投稿した。すると大学からまたメールが届き、投稿の内容を修正しなければ滞在先の提供は取りやめると告げられた。
「この先、腰を落ち着けて住める場所がない状態です。まだ回復期なので、少なくともあと2ケ月は働いて稼ぐことはできません」とオートリーは言う。「人生最良の日であり、最悪の日です」

大学側からは自主退学を勧められたが、拒否したところ、懲罰委員会にかけられることになったという。
8月7日に審議が行われ、その様子をオートリーが録音した資料を提供してもらった。
懲罰委員会がオートリーを呼んだ理由は明確だった。冒頭で祈りが捧げられたあと、フォーリンズ学生部長が、学生の手引きから該当箇所を読み上げた。手引きでは「ポルノの使用を含むあらゆる種類の性的不品行、不純行為」および「性的不品行、例えば婚前および婚外交渉、性的関係、いかなる形の性的倒錯に該当する行為を行うこと」が禁じられている。
フォーリンズは次のように説明する。「あなたの投稿にはいろいろなことが挙げられていましたが、中でも自分はトランスジェンダーで、そのためのプロセスに着手する手術をした、とありました。大学側の見解に従って、これを理由として今日の委員会を開いています」

オートリーはみずからを弁護し、「大学の手引きや聖書に反する類いの性的な行為は一切ない」と委員会に訴えた。
「どういうわけで、何について私を審理にかけようとしているんでしょうか?」オートリーがたずねると、規定の中の「性的倒錯」の部分が「引き金」になった、と委員の一人が答えている。
懲罰委員会は最終的に2学期の停学処分を決めたが、期間終了後に快く迎えられるかはかなり疑わしい、とオートリーは言う。
ウェルチ・カレッジはBuzzFeed Newsに寄せた文書の中で、個々の学生のケースについてはコメントできないとした上で、トランスジェンダーを自覚する個人に対する立場は明確にしている。
「本学では、神は人間を補完的な2つの性、すなわち男と女に創られたとする立場をとっています。また本学では、人間の罪への堕落が、人間の性の領域を含む神のよき創造物に対し、壊れた状態を招いたと認識しています」
文書はこう続ける。「本学では、そうした混乱を経験している個人――および多くの場合それに伴う苦悩――は愛と慈しみをもって扱われるべきだと考えます。同時に、人が与えられた身体に手を加えようとする行為は、人間に対する神の意図に背くものとみなされるとも考えています」
こうした大学の信条は全学生にあらかじめ伝えてある、とマット・ピンソン学長は説明する。

「われわれは引き続き、ジェンダーの混乱を経験しているすべての人のために祈りを捧げると同時に、本学および本学を支える宗派が信じる、キリスト教の伝統として2000年以上にわたり受け継がれてきた価値感を尊重して参ります」
教育法第9篇(タイトル・ナイン)は、アメリカの教育現場における性別による差別を禁じている。ただし、宗教団体等が運営する私立校については、適用除外の申請ができる。ウェルチ・カレッジが適用除外を受けているかは不明だ。
現在、オートリーは大学が提供したホテルに身を寄せ、術後の回復は順調だという。ホテルを使えるのは8月12日までと大学から通知されており、その後は家族ぐるみの付き合いがあるノースカロライナ州の友人宅に滞在し、残りの療養期間を過ごすつもりだ。その後どうするかのあてはない。
「これまでも2度、住む場所がなくなりそうになったことがあって、どちらもトランスジェンダーであることと関係していました。だから、こうした事態がまた起きるかもという心づもりはありました。ただ一歩ずつできることをするだけです」

両親からも連絡があったが、金銭面で援助してもらえるかはまだわからない。
「今はただすごく無力感でいっぱいです。こういうことが起きているんだとみんなに知ってもらえれば」とオートリーは話す。
「今やトランスジェンダーやLGBTでもみんなうまくいっている、と言う人も大勢いるけど、今回の件は実際にはそうではないことをよく物語っています」

クリハラチアキ
社会と言うものがある以上、自己実現をするとこんな障壁があることも。
そんな障壁本来おかしいんだけどね。そんな障壁がとっととこの世界からなくなればいいのに。



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