宮城学院女子大学で「トランスジェンダー学生」受け入れ、学長語る現場の苦悩
直訳すれば「性別を乗り越える」ということになろう。先頃、「トランスジェンダー」学生の受け入れを表明したのは宮城学院女子大である。この決断に賛辞の声が上がる一方、現場には「乗り越え」なくてはならない課題が山積していた。
では、明治19年に創立された宮城女学校を前身とする歴史ある女子大は、なぜ今回の発表に至ったのか。
平川新(あらた)学長に尋ねると、
「そもそもの発端は、“トランスジェンダーの学生の入学を女子大として検討すべきではないか”という学内の教員からの提案でした。そこで2年ほど前に検討委員会を発足。学生や保護者、同窓会の方々の意見を聞き、説明会を何度も開いて、2021年度から受け入れる方針を決めました」
戸籍上は男性ながら、自らを女性と認識しているトランスジェンダーの学生の受け入れについては、お茶の水女子大と奈良女子大が来年4月からスタートさせる。宮城学院女子大は私立校として初めて2校に追随することになる。
今後は「トイレや更衣室をどうするかについても検討していく」(同)というが、「戸籍上は男性」の新入生を女子大に迎えるための壁は決して低くない。
さる女子大関係者は、
「トイレや更衣室は新たに設置すれば対応が可能でしょう。ただ、女子寮に受け入れるのか、健康診断は別個に受けさせるのかなど、細かい課題は山のようにある。他の学生と一緒に部活動を頑張っても、女子の大会には参加できないことだって考えられます。また、海外の女子大との交換留学制度がある場合、先方が受け入れてくれるかは分かりません」■“なりすまし”のリスク
15年には福岡女子大に入学願書を提出した男性が、性別を理由に受理されなかったことを違憲として提訴。後に訴えは取り下げられたが、大きな話題となった。そうしたなか、
「この時代に、あえて女子大に入学する学生には地方出身の“箱入り娘”が少なくない。親御さんが保守的な考え方で、“東京に進学するなら女子大以外は認めない”というケースです。そうした親御さんからすると、今回のような先進的な取り組みは理解しづらいかもしれません」(同)
また、宮城学院女子大では、強制的なカミングアウトを避けるため、出願時に診断書の提出や自己申告は求めない方針だが、日本女子大出身の脚本家・橋田壽賀子氏はこう言うのだ。
「トランスジェンダーの人が女子大に入学することに抵抗はありません。ただ、診断書が必要ないというのには首を傾げます。嘘をついて女になりすます人がいたら困ってしまう。むしろ医師からの証明をもらって、女性であることに堂々と胸を張ればいいんじゃないかしら」
他方、別の女子大関係者はこう語る。
「このご時世、大学側の取り組みは理解できます。もっともこれを受けて当人にあまり堂々と振る舞われても周囲は困惑するのではないか。だから大学側もカミングアウトを求めていないのでは……」
なりすましの懸念について平川学長は、
「我々は女性として生きたい学生の受け入れを表明したわけです。仮に入学後に“なりすまし”が発覚すれば、大学の秩序を乱したとして退学処分にします」
理想が高い分だけ、現場の「苦悩」は深いようだ。
世の中とはこんなものだ。そこにブレイクスルーな解決策があると信じてトライエラを繰り返すしかない。
1つ言えるのは時代は着実に進んでいるということだ。