8歳の娘がいるので「性別変更」できない…なぜそんな要件が生まれたのか?
8歳の娘がいる兵庫県の契約社員(52)が12月3日、戸籍上の性別を女性に変更するよう求める審判を神戸家裁尼崎支部に申し立てた。戸籍上の性別を変更する際に、「未成年の子がいない」ことを要件とした性同一性障害特例法の規定が、憲法に違反しており、無効だと主張している。
報道によると、申立人は、男性として生まれたが、性別の違和感を幼い頃から感じていたため、約30年前からホルモン治療をして、約25年前からは、女性の姿で仕事をしている。今年、性別適合手術を受けたが、性別を女性に変更できず、男性のままであるため、職場のトイレなどの日常生活で不便や不安があるそうだ。
過去に女性と結婚して、長女が誕生したが、現在は離婚している。この長女の存在が、今回の性別変更にあたり、「未成年の子がいない」ことの要件を満たせないことにつながっているという。
なぜこのような要件があるのか。森伸恵弁護士に聞いた。
●要件が生まれた経緯
「海外では1970年代から1980年代にかけて、法令上の性別の変更を求める者について、性別変更をできるようにする法律が制定されてきました。そして、日本でも2003年に特例法が制定されました。
今回問題になっている『現に未成年の子がないこと』の要件は、2003年の制定当時は『現に子がいないこと』という要件でした。
この要件ですと、子がいる当事者の人の場合、子が先に亡くなる等の事態が生じない限り、生涯、性別を変更できないことになります。
これは性自認とは異なる性で一生を歩むことになるため、当事者の方の不利益が大きく、不合理という批判がありました」批判を受けて、どのようなことが起きたのか。
「2004年には、現に子がいる当事者が、『現に子がいること』の要件は憲法に違反するとして、さいたま家裁熊谷支部に性別の変更を申し立てました。
裁判所は『現に子がいること』の要件は、①親子関係などの家族秩序に混乱を生じさせることを防止する、②子の福祉に影響を及ぼすことのないようにする目的があり、違憲に当たらないと判断しました(東京高裁2005年5月17日)。
この決定後、『現に子がいないこと』の要件の削除を求める、同様の申立運動が起こりました。しかし2007年に最高裁は、同様の判断をしています。
裁判所では違憲と認定されませんでしたが、その後、当事者の幸福追求権や法の下の平等を考えると、子の福祉の観点から一定の制限が必要だとしても、その制約は最小であるべきという議論が起こり、2008年に『現に子がいないこと』の要件は『現に未成年の子がいないこと』に改正されました」●親の性別変更が本当に「未成年の子の福祉」に悪影響を及ぼすのか
では、今回の審判のポイントはどのようなものか。
「当事者の幸福追求権(当事者が戸籍上の性別を変更したいという気持ち)と子の福祉のどちらが優先されるべきか、そして、未成年の子がいる当事者の戸籍上の性別が変更されても子の福祉に悪影響はないのでないかという点です。
未成年の子がいる当事者が性別を変更すると、家族秩序や子の福祉に悪影響があると考える立場の方は、実際に『お母さんと思っていたのに、お母さんが途中でお父さんに変わった(逆もしかり)』といった事態が起こり得ることを懸念しています。
もし、このような事態が子が小さい頃に起きてしまったら、 ・子がその事態に対応できず、情緒が不安定になるおそれ ・子の健全な成長に影響が出るおそれ ・当初の家族構成から著しく変化してしまうおそれ 等があることを心配しているのです。
しかし、実は、当事者の場合、戸籍上の性別を変更していなくても(変更できなくても)、実態としては既に、以前の外見から変化しています。
戸籍上の性別を変更しても変更しなくとも、既に事実として、当事者の外見や家族構成が変化し、これを子も事実として受け入れ、何年も経過しているということがあり得ます。
戸籍の性別を男性から女性、女性から男性に変更しても、子の福祉にダイレクトに影響するかと言うと、必ずしもそういうわけではありません。
私は、子が健やかに成長し、幸せになっていく一番のポイントは、最終的には親が子にどれだけの愛情を注いでいるかだと考えています。
親の戸籍上の性別が変更されても、親が変わりなく愛情深く子を育てている場合には、子の福祉に悪影響が生じる恐れは少ないのではないでしょうか。
今回の申立てを契機に、ゆくゆくは『現に未成年の子がいないこと』の要件が削除されることを願っています」
結局、外見が変わってるなら性別なんてどっちでもいいわけで。
だったら、性別変更要件に「子がいないこと」は不要ってことになるけど。
難しいね、まだ「性別」は社会的にパワーを持ってるから。